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【認知症男性JR事故死】JR東海任された悪役。自殺との差は。

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2016/3/2

2007年12月、認知症の男性が愛知県大阪府のJR共和駅線路内に下り、列車にはねられ死亡。振替輸送や人件費等約720万円の損害賠償を求め、JR東海が提訴。1日、最高裁判断が下った。
(参考)認知症事故判決「家族にとって救い」 誰が責任…課題も:朝日新聞デジタル

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「父親も喜んでいると思います。」

知らない内に自ら事故を起こしており、その損害を肩代わりするのは誰かについて8年間も見せられてきているのだ。
親族が勝訴したからといって手放しで喜べるものではないだろう。

■“監督義務者のあいまいさ

民法では、責任無能力と判断された者(認知症等)が不法行為をはたらいた場合、監督義務のある者(監督義務者)が代わりに責任を負うとの規定が存在する(第714条1項)。
なお、監督義務者とされる者でも、監督義務を怠っていない場合、或は義務を怠ったとしても損害が発生した場合は責任を免れる。(同条同項但書)

故に争点は、男性と同居していた妻、そして離れて暮らす長男が監督義務者か否かである。

1審では、2人に監督義務者として全額の支払いが命じられ、2審では、同居している妻の協力扶助義務(夫婦の協力義務)を理由に、妻のみが監督義務者と判断された。
ところが昨日大逆転。

・「妻は介護に当たっていたが自身も要介護1の認定を受けていた」
・長男は「20年以上同居しておらず、事故直前も月に3回程度、男性宅を訪ねていたに過ぎない」

上記が考慮され、監督義務を免れたのだ。

以上から、同居の夫婦であるからといって当然に民法上の監督義務者にあたるわけではなく、生活の態様・関わり方によって総合的に考慮すべきとの基準が明確になった。
一見柔軟な判断をしているように見るが、あいまいで実に恐ろしい判決である。

高齢者には関わるな
もし、妻が介護認定を受けていなかったら…?
仮に、長男が毎日実家に顔を出していたら…?

監督義務者と認定される確率が高まっただろう。

だが、自宅は介護施設でもなければ刑務所でもない。
一瞬の隙も見せずに責任無能力者の面倒を見きることは、老老介護が社会問題に上がる昨今、到底不可能だろう。

それでも、できるだけ介護に携わろうと動かすものは思いやりしかない。

しかし、今回の判決はどうだ。
下手に高齢者に関われば、運が悪けりゃ720万が飛んでいく。
高齢化が進む中で、愛の手を差し伸べれば差し伸べる程損をする構図が出来上がってしまったではないか。

少し煽った言い回しになったが、何も法律では珍しいことではない。
事務管理(民697条~)に例を見るように「一回首をつっこんだなら、やり切れ」というのが基本的な考え方だ。
逆を言えば、「関われば、責任を問われる」
この考え方をこじらせると、女児がトラックでひき逃げされようと、通行人が完全無視するような国ができあがる。

日本もその一歩を踏み出しているのだろうか。

■JRは何故訴えた
そもそもJR東海が訴えた理由は何か。
この訴訟、素人目には弱い者いじめのようにも見えかねない。
大手企業にとっての720万なぞはした金だろう。
企業イメージが何よりも大事な中、訴訟に踏み切った理由を推測する。

自殺だったら訴えない
人身事故の原因は他に“自殺”が挙げられるが、この場合鉄道会社は遺族へ訴えることはない。
というより、訴えること自体できない。
遺族には、自殺を予期し、止める義務はないからだ。
いじめ等が原因の場合は、相当因果関係が認められれば保護者の監護義務違反(民820条)ということも或はあるか。
いずれにせよ例外中の例外である。
では、なぜ度々遺族との関係が騒がれるのかと言えば、鉄道会社が自殺者への損害賠償請求をする中で、その相続人として遺族が登場するからである。
とはいえ、実際訴えにまでに発展するケースは稀なようだ。
そこまで無慈悲なことはしないということだろう。

だとしたらなぜ今回は…

悪役になるしかなかった
本件の場合は、死亡した男性ではなく、遺族へ、監督義務を盾に直接訴えることができた。
そして、実際訴訟までに発展し、8年間も争っている。
示談で遺族らがごねたのもあるだろうが、曖昧に終わらせなかった。
私はここにJRの社会的責任を感じる。

“自殺”ならば、「損害賠償責任が発生しないなら、みんな電車でどんどん自殺しよう!」ということにはならない。

しかし、“認知症で徘徊した老人が勝手に人身事故に遭っても、家族に何も賠償責任が発生しない状態だった場合、介護疲れの家族は「野放しにしておけば勝手に死んでくれる恐ろしい話ではあるが、このような考えに至る者が出て来る可能性もある。

これに決着をつける必要があった。
JRは、勝っても負けても悪役にならざるを得なかったのではないか。
結果、原則支払い義務はある。しかし、例外も少しはあるという指標ができた。

本判決は、様々な課題を残している。
議論はまだまだ終わらない。